LIFULL Creators Blog

LIFULL Creators Blogとは、株式会社LIFULLの社員が記事を共有するブログです。自分の役立つ経験や知識を広めることで世界をもっとFULLにしていきます。

デザインする勇気

大坪と申します。先日面白い記事を見つけたので紹介しつつ、つらつらと。

記事の題名は"Design Courage"。さて、DesignといえばApple。(異論は認めません。私は視野の狭いApple原理主義者なのです)Appleが新しい製品を出すたび(あるいは出さないたび)聞こえてくる

"Steve JobsがいなくなったからAppleはもうだめだ”

"Steve Jobsが生きていればこんな製品は出さなかった”

という声の多さには驚きます。*1

さて、そうした人たちが言うようにSteve Jobsの存在自体がAppleを他の企業から際立たせていたものなのか?この記事の筆者は違う、と主張します。ではそれは何なのか。

The difference between Apple and many other companies comes down to one word: courage. Everyone thinks they have great ideas. Everyone thinks they’re smart. Everyone thinks they have great designers and engineers. So why is there so much difference between the best and the average? Courage. Not lip service courage, actual courage. It’s rare in software.

引用元:Design Courage — Medium

適当な訳:Appleと他の数多くの企業との違いは一語で表すことができる。「勇気」だ。誰もが自分たちはすごいアイディアを持っていると思っている。誰もが自分たちは賢いと思っている。誰もが自社にはすごいエンジニアとデザイナーがいると思っている。では「最高」と「凡庸」の差異はなんなのか。それは「勇気」だ。ただ口で言っているのではなく本当の「勇気」これはソフトウェア業界では稀なものだ。

では具体的にそれはどのような「行為」に現れてくるのか。例を考えました

未だにApple Watchの発売日は明らかにされません。例えば発売日を決めるにあたり、Appleはこんな考え方もできたはずです。

「他の企業がスマートウォッチを発売する前に売り出し、市場シェアをとってしまおう」

「今年のホリデーシーズンを逃すことはありえない。必ずその前に出荷するべきだ」

しかし彼らはそうしなかった。発売時期を遅らせても完成度を高めることを選択したのです*2。企業に勤めている人であれば、↑のような声に逆らうことがどれだけ勇気が必要なことが想像できるのではないでしょうか。

とかなんとか考えていて別の記事を思い出しました。

Every aspect of the company's production cycle, from conception to ship date, is calculated. But--and this is a big "but"--what makes Apple different is that it is a company that is willing to move those deadlines. If a product in development isn't ready to be released, the deadline is pushed back. If an idea isn't perfect, or isn't considered truly magical and delightful internally, it's held back, revised, and the product given an entirely new launch date.

引用元:The Biggest Lesson I Learned as an Apple Designer | Inc.com

適当な訳:(Appleの)全ての製品開発サイクル-コンセプト作成から出荷まで-は計算されて設定される。しかし-この「しかし」が大きいのだが-Appleが他の企業と違うのは、そうして設定されたデッドラインを進んで変更することにある。開発中の製品がリリースされるだけの完成度になければ、期限は遅らされる。アイディアが完璧ではなかったり、真に魔法のようだったり楽しくないと考えられれば期限は伸ばされ、スケジュールは改定され、製品の発売日は全く新しく設定される。

なるほどなるほど。話しとしては面白いねえ。でも「期限を決めずに納得のいくまでがんばって!」などといっても怠けて結局何もでてこないのではないか?

こうした「当然の疑問」に対して本記事はこう述べます。

That doesn’t mean your design team is always right, or deserves unchecked power. A company needs balance across all disciplines. But the reality of software development today is we put design on a pedestal right up until the moment it threatens to affect our deadline. Then design turns into an unaffordable and unreasonable luxury

引用元:Design Courage — Medium

適ry)訳:これはデザインチームがいつも正しい、とか誰もチェックできないくらいの力を持つべきだ、という意味ではない。企業は全ての面に渡ってバランスを保たなければならない。しかし昨今のソフトウェア開発現場では、デザインをありがたく奉っておき、期限が迫ってきた途端「デザインは理不尽で度を越した贅沢」扱いする。

  いやいや、ビジネスなんだから期限が第一。というわけで例えば、プロダクトの開発に関して

「設定したリリース日より1ヶ月前倒しで完成した!グリフィンドールに50点*3

とか

「面白いプロダクトだけど、リリースが2週間おくれちゃったね。スリザリンに-30点」

といったような評価があっても驚きません。こうした「期日を守ったか守れなかったか」を元に判断することは確かに「わかりやすい」し「定量的」でもある。しかしそうした評価方法で「真に素晴らしい製品」を作りあげることができるのか?

「リリースを2週間遅らせたことによる完成度の向上と、ビジネスへのインパクトを秤にかける」

のは難しいし、そのように考えることは確かに「勇気が要る」ことだなと考えたりします。

そんなのは自分でリリースデートを決められる立場にいるからできることだよ、という議論もあるでしょう*4。 しかしながら、私見ではここで言われている「勇気」は開発における期限に限定されるものではない。

話が膨らみすぎたので、身の丈に戻しましょう。先日iPhone版「へやくる!」をリリースしました。

物件一覧画面を見ていただくとナビゲーションバーがないことに気がつくと思います。ここから左右にスワイプすれば条件設定画面、あるいは物件詳細画面がでてくるのですが、果たしてユーザがそれに気がついてくれるか?(初回起動時にインストラクションを出してはいるのですが)

ここは社内でも議論になりました*5。あれやこれやの検討の末現在の形でリリースしたわけですが、リリース後しばらく

「最初の画面から誰も移動できず、アプリがろくに使われないのではないか」

という悪夢に悩まされ続けたのも事実。素直にナビゲーションバーをつけておけばよかったか、あるいは画面遷移を示すボタンだけでもあったほうがよかったのか、とかあれこれ考えました。アプリの利用状況を見てそうした結果になっていないことを知り、最近ようやく安眠できるようになったというのは嘘です(最後の部分だけ)。

これは「Apple Watchのリリースを翌年春まで伸ばす」ことに比べれば、測定限界以下の小さな「勇気」です。しかし製品やサービスのデザイン/設計はこうした「勇気」の積み重ねでもある。小さなステップであっても「勇気」の持ちようによって最終的に表にでてくる製品/サービスは大きく変わってくるのかもしれない、と最近考えています。

*1:私のような人間からすると、そうやって自分の頭の中にSteve Jobsを住まわせておくことができる、というのはとてもすごいことだなあと思うのですが

*2:実際にでてきた製品がひどい出来で「発売伸ばした挙句にこの出来かよ」と思う危険性の存在は無視します

*3:最近子供がハリーポッターを読む年頃になったのです

*4:皮肉なことですが、Appleはサプライヤーに対して、非常に過酷なDeadlineを課す契約をしていることが明らかになっています

*5:ちなみに私が愛するFacebook Paperはもっと大胆で、最初の画面を上から下にスワイプしない限り設定はおろか新たな投稿も行えないデザインになっています