データサイエンスグループの島です。 普段は機械学習システムバックエンドの開発や運用を行っております。
2024年5月25日に半蔵門の本社2Fにて機械学習(AI・人工知能)に関するライトニングトーク(LT)会が開かれました。 素晴らしいLT会でしたので、内容をいくつかシェアさせてください。
第89回 Machine Learning 15minutes! Hybrid - connpass
「Machine Learning 15minutes!」というコミュニティを運営している門前さんが主催するLT会です。 以前の開催に引き続き、LIFULL AI Hubが協賛という形での開催となりました。
現地参加とオンラインのハイブリッド開催で、会場20名、オンライン100名ほどがいらっしゃいました。
様々な方が発表してくださり非常に盛り上がりました。豪華な内容でとても示唆に富んでいました。関係者の皆様、参加いただいた皆様ありがとうございました。
LIFULLからは分析に関わる社員向けのデータ活用施策であるファクトブックに関する発表を行っております。
とても盛りだくさんなLT会ですべてをご紹介できないのですが、LIFULLのような事業会社でのAI活用という視点で心に残ったものを共有させてください。
- 元木 大介さん【2週間で世界1万ダウンロード 自然言語プログラミングの衝撃】
- 吉崎亮介さん【仕事の対話をAIでハックする考え方とプロセス】
- 森 正弥さん 【AIは人の仕事を奪うのか? AI時代の新たな哲学】
- 懇親会
元木 大介さん【2週間で世界1万ダウンロード 自然言語プログラミングの衝撃】
元木さんが開発されている自然言語プログラミングフレームワークに関する発表でした。
Zoltraakとniwatokoという2つのプロジェクトが説明されました。
(Zoltraakの名称は『葬送のフリーレン』から引用されています。)
Zoltraakはプロンプトとして与えた曖昧な要求から、ドキュメントを生成するためのフレームワークです。例えば要件定義書などを生成できます。
niwatokoでの自然言語からのプログラム生成も検証中のようです。Zoltraakで生成した要件定義書を入力にする使い方があります。汎用的に実現できるとすごそうな予感がします!
自然言語でのプログラミングが可能になると、開発者の数が10倍くらいになるのでは?というようなお話もありました。ゲームチェンジ感をひしひしと感じます。
2つのプロジェクトを統合すると、プロダクトが一瞬で出来上がるというような世界観ですね。まさに魔法のようです。
Zoltraakを使ってみるとわかるのですが、CLIでの操作が魔法を扱っているようなワクワク感を感じさせるUXになっています。
プロダクト開発においては、ワクワク感を持って勢いで作ってしまうことは地味に重要なんじゃないかと思っています。ワクワクさせる仕掛けを私も大切にしていきたいです。
また今回のLTには含まれていませんが、Zoltraakの価値観や使命感については、元木さんによるツイートがありました。
熱い想いが語られており、生成AI活用を盛り上げていくぞ!という勢いが滲み出ており、非常に共感します!
#自然言語プログラミングZoltraak の使命、将来像、価値観をまとめます
— 元木大介@生成AI塾&抽象プログラミング言語: ゾルトラーク、にわとこ (@ai_syacho) 2024年4月26日
* 俗に言うミッション、ビジョン、バリューですが、Zoltraak開発の中心的存在である私たちは日本人なので「日本語」を特に大切にします
ちなみにこれはグローバリズムとの対立を生む思想ではありません。後述します。
将来像:… pic.twitter.com/rgL9MEBhaB
吉崎亮介さん【仕事の対話をAIでハックする考え方とプロセス】
吉崎さんからはAIを介して成果物を出す人間をどう増やすかというお話を頂きました。
スライドはこちらをご覧ください。
ボリュームのあるスライドですので、かいつまんで説明いたします。
まず、「AIから目的とする出力を引き出すためには、十分な量の入力が必要である」という話が前提になっています(下記スライドP17までの議論です)。
短いプロンプトでふわっとした指示をした場合に、意図通りにAIが動いてくれない経験は皆様もお有りだと思います。
業務にAIを活用したい場合、業務固有のデータやノウハウをAIに与えることが重要です。
したがって、
- 業務経験データベースに業務固有のデータを入力する準備ができていること
が重要で、これに
- 「高度な論理的思考力というフィルタ」としてのAI活用
をかけ合わせると、仕事で使えるAIとなります。
では、業務固有のデータ、業務経験を蓄積する際に、どういうことに気をつければよいのでしょうか。
業務経験をここでは、「本質的な情報(x)」から「表現(y)」への写像として捉えています。
AIとの協業では「本質」をいかにうまく扱うかが重要であるという話の流れになります。
下記スライドでは本質的な情報からアウトプットを生み出すためのプロセスにおいて、AIとの協働がうまく行っている状態の例を示しています。暗黙知としてのナレッジが表出化され、AIへの入力として組み込める状態だということですね。
「AIによるx→yへの変換を人間が修正した結果」を自動的にDBに集積し、それをAIに渡す入力をアップデートすることでAIの表現を洗練させていく、というアイディアがこの図のポイントだと思います。
弊社の話題に移すと、LIFULLでもkeelaiというSlack Botを社内用に運用しております。
生成AIによる20,000時間の業務効率化を支える取り組み - LIFULL Creators Blog
keelaiでもRAG(Retrieval-Augmented Generation)を用い、既存のバックオフィスFAQの内容を情報の取得元の1つとしています。
いかにしてkeelaiを活用できる場面を増やすかという点を考えており、吉崎さんの発表の「業務経験の集積」という考え方が参考になりそうです。
興味深い発表をしていただきありがとうございました!
森 正弥さん 【AIは人の仕事を奪うのか? AI時代の新たな哲学】
森さんは博報堂のChief AI Officerの方で、AI倫理に関するお話をいただきました。
発表は主にこちらのnoteの内容でしたので、noteをご覧いただくのが良いかと思います。
主張としては『「リアル VS ネット」または「現実 VS 仮想」といった二項対立に陥らないようにする』というような内容で、両極のベストを組み合わせた第三の方法を見つけるような考え方を身につける必要があるということでした。
これはまさにその通りだと思っていて、AI時代になっていくと一人の人間の意思による力がAIによって増幅されていくので、それを争いに使うと被害が大きくなってしまいます。
AIによって生まれた実務能力によって様々なものが加速していくので、AIを使って何がしたいのかをよくよく議論しておかないと、AかBかのどちらかに寄ってバランスが悪くなっただけになりかねないと思います。
プロダクトマネジメントの文脈で、プロダクトビジョンの制定とその実現に向けた継続的な議論が重要だというような話があります。
弊社LIFULLではプロダクトマネジメントの活用を近年意識しており、 昔よりはプロダクトのあり方について議論する場は増えてきていると感じています。 様々な人たちと様々な議論を行うことで、より多様な視点を包含した方法につながるのではないかと思います。
懇親会
懇親会もとても盛り上がりました。
オンラインのzoomをプロジェクターで投影しながら、オフラインの会場と繋いで雑談するというハイブリッドで行われました。
話題としては様々なお話があったのですが1つだけ挙げると、さきほどの森さんにEUのAI法案について解説いただいたのが興味深かったです。
EU AI法案が加盟国に承認され成立 規制は2026年に適用の見通し | NHK | EU
こちらは2026年から本格的に適用予定の規制なのですが、これはEUが基本的人権をどう考えているかのメッセージだというお話をされました。
規制とは単に守るべきものと捉えがちですが、規制があるからこそ、その領域に対して人々がリテラシー意識を持つようになるとも言えます。
AI法案の罰則の上限はGDPRの罰則の上限よりも高いので、EUはAIと人権の問題を重く見ており、 それは(GDPRすなわちデータの問題よりも)議論されるべきものだと考えていると言えるのかもしれません。
AI開発者はAIにバラ色の未来を投影しがちですが、インターネットにもフェイクニュースやフィルターバブルの問題はあるので、技術がもたらす様々な副作用に目を向けていかないといけないということですね。 (もちろん、バラ色の未来を実現させることもとても重要です)
「Machine Learning 15minutes!」には様々なバックグラウンドの方が集まり、とても熱気がある会でした。弊社も協賛という形でのご協力ができて嬉しいです。
最後に
LIFULLでは生成AIを積極活用する方針があり、共に成長できる仲間を募集しています。
ご興味のある方はこちらの採用ページからぜひご応募ください。