LIFULL Creators Blog

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Don't underestimate the Focus!:フォー"カ"スを見くびってはいけない!-iOSアプリのtvOS版を作ると何が起こるか?

Apple原理主義者の大坪です。前回は「tvOS上でアプリを作ろうと思ったらFocusのパワーを身につけなくちゃね」と言ったところでおしまい。今回書くのはそのFocusのパワーがアプリのデザインに与える影響について。

ちょっとまて、貴様のような生活に疲れたエンジニアがデザインについて何を語るというのだ、という声がどこからか聞こえますが気にしません。いや、最近耳が遠いもので...

「題材」にするのは、Youtube 上の動画をだらだら眺めるのが目的のアプリです。

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iPad版はこんな感じで動きます。あれやこれやと機能がありますが今回対象とするのは、動画の下に流れている関連動画リスト。

ずらずら並んでいる関連動画を好きなだけ左右にスクロールして興味をひく動画のサムネイルを探す。サムネイルを上にスワイプすれば再生される。表示を「お気に入り」とか「履歴」とかにしたければ画面右下に並んでいるボタンを押す。

こうしたやり方自体そう変わったものではありません。しかし同じ機能を「さてtvOS上で実現しよう」と考えると最初の一歩からつまづくことになります。「左右に自由にスクロール」というのがまずtvOSではできない。もちろんスクロールはできますが、それはフォーカス移動にともなってポチポチと移動するだけ。

さらに

リストを切り替える際の「ボタン操作」も困る。iPad版では切り替えのためのボタンがあちこちに存在していますが、tvOS上のアプリで操作できるのはフォーカスが存在するところだけ。つまり「タップに反応する領域」をあちこちに配置すると「何をするにも山ほどカーソルを移動させなくてはならない」ことになる。じゃあどうするか?どうもtvOSで発生するエラー(APIが微妙に違うので)を治すだけではなく、デザインに立ち戻って考える必要がありそうです。


こういう時は、30分ほど現実逃避した後に、ぐっと画面を眺めて考えましょう。


そもそもここの操作とか表示はどうあるべきなのか?tvOS上のアプリの特性を考えながら以下にずらずらと書きます。*1

  1. iPad版では全ての画像に文字が重ねて表示されている。なぜならばユーザはどの画像でも瞬時にアクセスできるので。ところがtvOSではフォーカスが当たっているものしか選択できない。ならば全部の画像に常に文字を表示しておかなくてもよいかもしれない。

  2. そもそもTV画面上に文字がやたら表示されていると鬱陶しく感じる。

  3. フォーカスがどの画像にあたっているかは何かの手段でユーザに教えてあげる必要がある。

  4. リストの切り替えをボタンでやっている限り、ユーザの負担は減らない。ここは上下左右のカーソル移動でなんとかできないか

こういった事情をあれこれ考えた末、tvOS版の動きはこうなっています。

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リストの中で文字を表示するのは、フォーカスがあたったものだけにしました。これによりフォーカスがあることをフィードバックするとともに画面上がごちゃごちゃするのを防いでいます。

さらに

リストを「お気に入り」とか「履歴」とかに切り替えるのにはフォーカス移動を利用します。リストにフォーカスがあたった状態からさらに下にフォーカスを移動させようとした時、リストの内容を順繰りに変化させる。こうした方法をとると、直接「履歴がみたい」とかはできなくなるわけですが、あれですよ。昔テレビってそういうものだったじゃないですか。今では死語になった「チャンネル」を回すと順繰りに番組が変わる。ここで操作しているのは「テレビ」なんだからあれでいいだろう、と力強く納得するわけです。納得しますよね?ね?ね?(焦点の合わない血走った目で延々と繰り返す)



とかなんとか書いてきて


最初に「聞こえないフリ」をした問いに戻ります。なぜ私が生活に疲れたエンジニアの身でありながらtvOSアプリのデザインについて書こうとしたか。tvOSはその機能こそiOSと似通っていますが、その上で動くアプリケーションの体験はiOS版(iPhone or iPad)のそれとは異なるものであるべきです。なぜならばデバイスが異なり、操作方法が異なり、それを使うユーザの姿勢が異なるから。

そう考えれば、tvOSと新しいApple TVの登場はまたまた起こった「よーいドン!」ではないかと考えることもできる。つまり誰も正解を知らない世界の扉がまた開いたのです。

iOS上で初めてアプリ開発が可能になった時、今ではほとんど使われなくなったいろいろな手法が試みられたことを覚えています。今同じようなことが(小規模に)起こっているのではないか。であれば、いろいろなことをトライし「なんだこれは」「おっと、この手があったか」と喜んだり悔しがったりできる。今回私が使った方法も数年後には「笑い話」になっているかもしれません。しかし今ならドサクサに紛れてあれこれ語っても怒られないかもしれない。いや、楽しい。

*1:以下にあげたものの他に、動画の画像は勝手に動いていくので画面からフォーカスが消えてしまっても困る。画面の端にきたら自動的にフォーカスを移動させなくてはならない、という厄介な問題がありますがここでは省略しています。