LIFULL Creators Blog

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FinTechの次はReTechだ! 不動産×ITの最前線レポート@FIT2016 前編

こんにちは。おうちハッカーの石田@リッテルラボラトリーです。

みなさんは、ReTechって言葉を聞いたことはありますか?
おそらく聞いたことのあるFinTechは、Financial Technologyの略で、金融をITや情報技術で新しいサービスを生み出したり、既存の問題を解決する動きのことです。

ReTechは、Real Estate Techの略で、不動産領域の問題をテクノロジーで解決する動きのことです。 アメリカでは、FinTechは既に様々な分野で技術が導入され、レッドオーシャン状態になっているため、次に来るのはReTechだ!と言われております。
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http://www.mckinsey.com/   *1

こちらは、各産業において、どの程度情報技術が入っているかを示した図となります。 金融、保険については、図の上の方でほとんど緑となっており、かなり技術が入ってきていることが分かります。 一方で不動産領域は赤や黄色ばかりで、まだまだITが入ってきていません。

実際に米国では、Real Estate Techに対する投資が増加しているそうです。

zuuonline.com *2

そこで先日、FIT2016 第15回情報科学技術フォーラム@富山大学で行われたイベント企画、 「Real Estate Tech:不動産×IT 〜ITが拓く不動産の未来〜」に参加してきました。*3
今回は日本における不動産×ITに携わる、大手不動産ポータル、スタートアップ、研究者たちが一堂に会したReTechの最先端技術の発表の模様をお届けしようと思います。登壇者の方々はこちらとなります。

f:id:nextdeveloper:20160912175343j:plain ビジネスサイドとアカデミックサイドそれぞれ3講演ありましたので、前編では、ビジネスサイドの3講演をご紹介します。

「HOME'Sデータセット」提供を通じた不動産領域におけるオープンイノベーション促進の取り組み

トップバッターとして、弊社の清田から発表させて頂きました。

「あなたにおすすめの物件はこれ!」といった物件の推薦は弊社でも研究を行っていますが、不動産物件の推薦アルゴリズムはとても難しいことが分かっています。

本や服といった商品などとの違いとして、ユーザーがより時間をかけて選ぶこと、立地や性能などの条件が複雑であること、同じ物件は一つしかないことなどがあります。 また選択に時間をかけると、賃貸で考えていたが購入してもいいかもと変わったり、家賃が高くて希望の駅が変わったりします。
そのため、「このお部屋を見ている人は、こんな物件を見ています」が通用せず、協調フィルタリングなどの一般的な推薦アルゴリズムでは効果が小さいと考えています。

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こちらは、住まい探し行動を可視化した図です。 f:id:nextdeveloper:20160912182154p:plain

最も単純な住まい探し行動は、検索→問い合わせ→来店→内見→契約、といった流れですが、 HOME'Sで検索した数日後に、物件名の検索でHOME'Sに帰ってくるパターンがあります。これはおそらく、HOME'Sを見て内覧して、別の物件を紹介されたが不安なので、物件名で検索してHOME'Sにたどり着いたというパターンと推測されます。住まい探し行動には様々なパターン・ストーリーがあり、有効な物件の推薦がとても難しいです。

また他の課題として、長期にわたって影響する意思決定をどのようにサポートするのか、ということがとても重要です。 住まい探しの選択は、数年から数十年に渡ってその本人や家族に影響を与えますが、選択の際には将来どのような問題に直面するか分かりません。
そのギャップをどのように埋めてあげるか、ということが重要になってきます。

このように人生に大きく影響を与える住まい探しは、複雑な意思決定プロセスをたどるため、様々な分野の知見を集めて学際的に取り組む必要があります。 そこでオープンイノベーションの取り組みとして弊社は2015年11月より、「HOME'S」の物件・画像データセットを研究者に提供しております。 ありがたいことに、国内・国外合わせて35の研究機関の方に使って頂いており、データセットを用いた研究も発表されつつあります。
研究分野は、情報学をはじめとして、建築学、経済学、都市学などさまざまな分野に及んでいます。

講演スライドは、こちらに公開しております。

www.slideshare.net

SUUMOでの分析事例と不動産データ活用の未来

野村眞平様、李石映雪様(株式会社リクルート 住まいカンパニー )

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SUUMOを運営している株式会社リクルート 住まいカンパニーのご講演でした。前半は野村様から、SUUMOにおける今までのデータ分析の取り組みを紹介されました。

さまざまな取り組みをしており、特に東大の松尾先生との共同研究である、将来のCVRを向上させるための推薦アルゴリズムの研究が興味深かったです。

人は何かを選ぶとき、様々なものを比較検討して選んで初めて、納得感のある選択をすることができます。
例えば、1億円, 3000万円, 5000万円の物件を見て、5000万円の物件に決める、といったことです。

納得感のある家探しのために、不動産情報ポータルとしては、幅広い選択肢をユーザーに提供することが重要です。 直近の問い合わせされやすそうな物件を推薦すると、同じような物件ばかり出てきて、視野が狭くなってしまいます。 そこで次の次に問い合わせがされやすそうな物件も含めて検討することで、幅広い選択肢を提示し、将来的な問い合わせ率の向上を目指す研究を行ったそうです。 f:id:nextdeveloper:20160912152631j:plain



後半は、李様が現在進行している研究についてお話しされました。 SUUMOでは、実験的にユーザーと不動産会社が直接チャットできるサービスを提供しているそうですが、そのログを用いてチャットの応答と来店率の研究を行っているそうです。

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このように、どのやり取りが来店率に影響を与えているかを分析しています。具体的な日時の話題になると、かなり来店率が高くなっていることが分かります。
これらを分析を通して、ユーザーに来店してもらうには、不動産会社はどのような応答を行えばいいのか、支援する仕組みを作っていくとのことでした。

他にも、リアルタイムな個人最適化レコメンドページ、画像解析などの取り組みをご紹介いただきました。
推薦システム、画像解析、自然言語処理など幅広い分野でReTechをリードしていらっしゃると感じました。

実践的! 人工知能×機械学習 iettyの場合

小川泰平様(株式会社ietty 代表取締役社長)

iettyは、自分の住みたい部屋の条件を登録すれば、最適な部屋をプッシュしてくれる——お部屋“探され”サイトです。 f:id:nextdeveloper:20160912162131p:plain

現在、不動産取引を行う際には、重要事項説明を対面で行わなければいけない、という決まりがあって完全にオンラインにできません。 しかしこれを2017年を目途に法律を改正し、オンラインでの契約ができるようになり、ネット証券・ネット保険に続き、ネット不動産仲介の分野が成立する予定です。 iettyはいち早くトライアルの業者として、オンライン化を進めているスタートアップです。

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現在、ユーザーとのやり取りにおいては、人手によるものと人工知能の自動応答によるもののハイブリットとなっています。
人手の案内では、案内したユーザーの4.28%が部屋の内覧まで行きますが、あまり多くのユーザーを案内することができません。

一方人工知能の案内では、非常に多くのユーザーを案内することができる一方、推薦アルゴリズムの精度の低さから、わずか0.07%しか内覧に行きません。 まだまだ人による案内にはかなわないのが現状です。

しかしながら、人工知能での推薦の質を向上させることができれば、より多くのユーザーが内覧・契約までたどり着き、収益を劇的に向上させられる大きな可能性があります。
そこでさまざまな手法を実装し、試しているのですが、ベンチャーならではのやり方で評価を行っているそうです。

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学術の分野で推薦アルゴリズムの評価は、データセットを分割し、ROC曲線などで定量的に評価します。
しかしiettyでは、まずは実装してみて、プロの目で判断、とにかくサービスに実装してみて評価という素早い動きでサイクルを回して評価・改善を行っています。 すぐに実践投入という、とてもベンチャーらしいやり方で素晴らしいと思いました。

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後半に続く

ここまで、ビジネスサイドの事例を紹介しました。次回はアカデミックサイドの不動産関連研究について紹介します。

*1:本イベントを企画された東大・山崎先生が導入に使われた資料となります。

*2:同じく山崎先生が導入に使われた資料となります。

*3:近い日程でFIT2016という同名のイベントが行われたようです。もう一つのFIT2016は日本最大のFinTechのイベントだそうです。
http://www.nikkin.co.jp/fit2016/