大坪と申します。2/27から行われましたインタラクション2014というカンファレンスに参加しました。ここではそのうちのインタラクティブ発表(1日目及び2日目)について「なにがしか書きたくなったもの」について書きます。
ちなみに私は人気のあるデモに並んででも体験する、という忍耐力を持ち合わせないので例えば論文賞を受賞した研究のデモは遠目に観ただけで体験しておりません。結果としてここにも書けないのでした。他の人気があった発表も以下同文です。またひたすら勉強になったものについても書いておりません。発表者については論文のFirst Authorの方のみ挙げております。
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SenseChairを用いた眠気検出に関する検討:阪大 宮崎さん
椅子にセンサーを仕込んでおいて、ユーザの姿勢変化を検出しそこから眠気を察してやろう、という研究。「椅子にセンサー仕込む研究っていくつもあったような気がするけどどこが新しいですか」と聞いててみればなんと「実際に研究室の学生の椅子に設置し、居眠りしている学生の姿勢をデータとして取得。その上で識別特徴量とかアルゴリズムを設定」とのことでした。
いや、すばらしい。私のようないい加減な人間がこうした研究を行うと
「被験者10名について、”居眠りしたつもりになって”もらいデータを取得しました。判定精度は、、」
とかやりがちです。しかしそれはあくまでもfakeでしかない。私はこのように現実に接地した研究に感動します。でもって気になったので
「学生さん、寝てくれましたか?」
と聞くと「なかなか寝てくれませんでした。一人よく寝る学生がいたので...」と率直に語ってくれたも印象的。
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交通事故低減のための運転者状況共有システム :ATR 内海さん
車内にカメラおいて、映像解析結果から運転手の状況を推定しようという研究は多くあります。この研究はそこから一歩進み、例えば
「今ドライバーは眠くなってますよー」
といった情報を車の外に対して提示してやろう、というもの。たとえば車の上に目玉がついていて、それが眠そうな目になるとか。
ユーザにアンケートとったところ、そうしたドライバーの情報について周りと共用することについて結構皆さん抵抗が無い、ということでした。では実際に事故とか起こった時不利な証拠として採用される可能性もあるのではないか、それでも情報を共有したいと思うのか、と聞いた所
「どんな相手と共有するか、というのを細かくアンケートと撮ったところ、警察相手というと受容度が下がった」
とのこと。やはりこうした試みが現実世界にでていくといろいろあるんだろう、と想像しました。
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マグネイル:爪装着型磁石を用いたインタラクション:お茶の水女子大 門村さん
個人的には一番面白かった発表。女性はネイルアートというかとにかく爪にあれこれつけてデコレーションすることがあります。そのデコレーションに磁石を仕込んでやる。
でもってスマホの地磁気センサーの情報を「ものすごくがんばって」解析処理すると磁石を仕込んだ爪がどのあたりにあるのかがわかる。その情報を使えば、たとえば中指が伸びているか曲がっているかでお絵描きソフトの「描画モード」と「消去モード」を切り替えるなんてことができる、というもの。
何よりも既存のスマホに何も付加する必要がなく、かつ操作側にも(ネイルアートに抵抗がない人であれば)あまり負担をかけることがなく新しい入力を実現しているところがすばらしい。しかし一番感動したのは、学生といっしょに自らつけ爪をつけデモをしていた椎尾教授(50代♂)の姿でした。
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Do-seiさん: 「やっておいたよ」メッセージの書き置きによる架空エージェントの存在感演出:京都工繊大 髙島さん
人間とコミュニケーションをするエージェントに関する研究は多い。でもたいていの場合それらのエージェントはなんらかの姿を持っている。(男性が作るときは、目の巨大な女性にすることが多かったりする)しかしあえてそうした姿を持たせず、エージェントは相手が帰宅したときに「置き書き」だけを残す。そうして情報を絞ることによりユーザの妄想を誘う、というのが狙いの研究。
私が説明を聞いているとある人が「例えば、夜遅く帰ってきたのだったら”大丈夫?疲れていない”とかメッセージに含めると面白いのではないか」とコメントをしていました。こういう話を聞くと私は意見を述べずにはいられない。
「そうした”状況に応じた人間との対話”は一見面白そうに見えるし、こういうデモの場では受けるのだが、長い間使うとユーザは飽きてしまう。バリエーションがないことがわかるからだ。人間を飽きさせない「自然な会話」というのはそれだけで大変な話。逆にもっと情報を削り、ユーザの妄想をかき立てるほうがいいのではないか。一番怖い物は形のない恐怖だと言う。それは形を持たせないことにより、人間が勝手に妄想を膨らませるからだ。同じように考えると、置書きとして文章を出すより例えば単語だけ提示してユーザに妄想させるのがいいのではないか」
概略このようなことを述べました。発表された方は大変素直かつ柔軟性のある方で、このように見学者が(好き勝手に)真逆の意見を述べていても、きちんと聞いて対応してくれたのが印象的。
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SoundShare: アドホックな情報共有のためのグルーピングの手法:東京工科大 依田さん
「グループで簡単に写真を共有する」ためにはなんらかの方法で「共有場所」の情報をそれぞれのスマホ(でなくてもいいのだけど)に教える必要がある。実際世の中にはそうしたシステムはいくつもあるのだけどなかなかちゃんと動かない。やれパスワードを忘れた、やれ無線がつながらない、そもそもBluetoothって何のこと、とか。
というわけで一番「原始的」ともいえる「一台のスマホから共有場所の情報を乗せた音を出す。他のスマホはその音を解析することで共有場所の情報を得る」というもの。ピーヒャラーと鳴る音を聞いていると、昔なつかし「モデムの音」を思いだす。そう感想を述べると、この研究の発表者自身はその音を聞いた事は無いが、同じような感想を述べた「おじさん」がいたとのことでした。
いろいろ突っ込みどころはあるかもしれませんが、着眼点は素晴らしい。これだけWebサービスだなんだ、があるにも関わらず「集まったグループで写真を簡単に共有する」というのは未だに解決されていない問題です。解決策は世の中に山ほど提案されているがどれも肝心な時に動作しない。結局現実世界で一番確実に動くのは「原始的な手法」ではなかろうか。確かに電波の悪い場所であっても、スマホである限り「音を出し、かつそれを取得する」ことは可能なはず。またQRコードを使うのに比べても、一度に複数の端末に情報を転送できる、というメリットがあります。
説明を聞いているうち、3年前を思い出しました。インタラクション2011の二日目、東日本大震災の時に無線接続のインターネット、電話は全く役に立たなくなりました。それまでカンファレンスで聞いていた「素晴らしいシステム」はもちろん、数々のWebサービスは使えなくなり結局「時代遅れ」の公衆電話に長い列ができたわけです。私が新しいシステムに対して「現実世界に接地している」ことを強く意識するようになったのはあの時から,,というのは嘘です。
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Pay4Say: 貨幣制度を導入したビデオ会議システム:北陸先端大 永井 さん
会議で「声が大きい人だけが発言する」という現象は大学でも会社でも起こりうるわけです。でもってそれを平準化するため
・参加者は発言コインを持っている
・実際に発言すると、発言コインが、誰かに贈与できるコインに変換される
・贈与コインは(匿名で)誰にでもあげることができる。贈与コインも発言によって消費される
というシステム。面白いと思ったのは
「声だけ大きくて内容がからっぽの発言をする人」
が、このシステムを使うと可視化されるのではないか、と思ったから。上司とか教授がこのシステムであっというまに発言を封じられたりすると、結構複雑な人間関係を浮き彫りにさせられるような気がします。
そういう具体例はないのか?と尋ねたところ、あまりない、との返答。おそらくこの研究をされた方の研究室には理性的な人がそろっているのでしょう。
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CCC: 振動機能を応用した携帯端末での個人認証における覗き見攻撃対策手法の提案:電通大石塚さん
携帯端末のパスワード入力は覗き見されると容易にばれてしまう。それを防ぐため、端末の振動機能を使おうという試み。
聞いていて
「そういえば、サッカーワールドカップの予選組み合わせ抽選も全世界にTV中継される中で行われるけど、温度を使ったり、振動を使ったりいろいろ不正な行為があると聞いた。それと通じるものがあるなあ」
と思いました。逆に「サッカーワールドカップ抽選から発想を得た”覗き見されない”認証手段」なんて研究も有りかもしれません。
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というわけで、最近とみにインタラクティブ発表が好きな私です。なんといっても研究を実際に行った人と様々な議論ができるのがうれしい。などと喜んでいると
「踊るなんとかに観るなんとか」
という言葉が頭をよぎる。というわけで次にインタラクションに参加することがあれば、何か持って行く可能性がないとは必ずしも言えないのでした(弱気)