AI戦略室の神谷と申します。データサイエンティストとして、機械学習や数値モデルのアルゴリズム開発に従事しています。最近ではAIをはじめとしたさまざまなデータの活用やビジネスへの応用について興味を持っています。
私が所属するAI戦略室では、将来的な競合他社との差別化を見据えた「AI技術シーズの創出」と短中期的な事業貢献につながる「AI技術シーズの活用」の2本柱となるミッションを持っており、AIとビジネスの橋渡しをどのように行っていくかを日々議論・検討しています(参考: 社内でAI成果展示会を開催しました - LIFULL Creators Blog )。2022年ごろから組織内の特命チームとして、特にAI技術シーズの活用を社内に促進する「AI活用促進チーム」が構成され、日々の業務と並行して社内のAI活用促進を図る業務を担当することになりました。
今回はLIFULLにおけるAI技術の活用という観点から、AIの活用促進の重要性とAI活用促進チームの実際の取り組みについて紹介いたします。
キーワード: AI-Ready化とは
AI活用促進の重要なキーワードとして、AI-Ready化というワードがあります。AI-Ready化とは、経団連が企業・個人・制度などあらゆるレイヤーに対するAI活用戦略の指針として定めたもので、「(社会・産業・企業が)AIを活用するための準備」が進んでいる状態を指します。
そもそもの技術背景としてAIによる識別・予測など一部の領域で人間を上回るような事例が増えており、AIシステムが新たなビジネスモデルの構築に欠かせないものとなっています。一方でAIを活用する企業や個人にもAIリテラシーの向上を促進する必要があり、日本がこれらの分野の産業競争に勝つために、経団連が2019年にAI活用戦略のためにガイドラインとして設定した指針がAI-Ready化ガイドラインです(参考: https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2019/0221_02.html )。
AI-Readyはガイドラインで5段階のレベルに分けられており、それぞれの役職においての行動指針が記載されています。この指針に沿っていえば、レベル1の企業はそもそもAIの活用自体が議論のテーブルに上がっていない状態であり、逆にレベル5は全従業員がAIを活用しておりそれぞれのマーケット領域にAIの専門家がいる状態を表します。
まだ道半ばではありますが、LIFULLはこのガイドライン上でレベル3を達成しつつあります。実務へのAI活用を徹底する取り組み、社員へのAI教育をはじめ、AIへの投資が継続的にコミットメントされており、また独自のAI開発体制も保持しています。この投資を続けていき将来的に自然とAIやデータ活用がされる組織(会社)にしていくことで、事業課題解決の手段としてのAI活用が検討のテーブルに乗せられていけば、事業戦略の幅も徐々に広がっていくと考えられます。
AI活用促進チームのミッションと活動報告
以上のような背景におけるAI活用促進チームのミッションを紹介します。 AI活用促進チームのゴールは「事業部とAI専門家のお互いの得意分野を活かした、具体的かつ良質なニーズや企画が量産される状態」としています。そのゴールに対する打ち手として「人材育成・発掘」、「コンサルティング」に近い業務となりますが、具体的なミッションは大まかに以下の二つです。
- AI活用のリテラシー・知見を全社に広める。
- 社内の事業ニーズに対する課題解決の手法として、AIの技術シーズを提案して導入につなげる。
チーム内のKGI(Key Goal Indicator)は「社内の事業ニーズに対するAI技術シーズの想定インパクト・導入確度の見積数」としています。AIを導入する企画段階においてどれくらいのインパクトが見込めるか、どれくらいの信頼度を持ってインパクトを出せるといえるかを見積もることで、AIの活用が事業課題解決の手段となるかの解像度が上がっていることを確認できる指標としています。
具体的な活動報告を以下に記述いたします。
AI学習Eラーニングサービスの受講促進
AI活用のリテラシー向上に取り組む上で、AIに関する基礎的な知識や活用事例を座学で学べるAI学習Eラーニングサービスを期間限定で社内に導入し、社員への受講を促進しました。
Eラーニングであれば業務の合間にでも耳で聴きながら受講することができることから、社員に対する学習負荷を最小限に抑えつつAIリテラシーの向上が図れることで、初学者の方でも取り組みやすいのではないかと考えました。ただし強制的に受講必須とするのは、本当に受講意欲のある社員に行き渡る前にサービスが終了してしまう恐れがあったため、受講希望者を優先する体制を整備しました。また、カリキュラムはメンバーの職種によってカスタマイズし、企画・エンジニア・バックオフィスなどそれぞれの職種に適した知見に関する講座を受講必須にする運用を実施いたしました。
この運用を約1年間弱行った結果、運営側を除く総受講者数は87名、基礎カリキュラム100%達成者は29名という結果でした。今回のEラーニング受講による効果を以下のように考察しています。
- 全社的なAIリテラシーの向上とAI導入の意欲向上に役立った。
- 各部署のAIに対する温度感を可視化することによって、今後のAI戦略室との関係性構築のベースとなるデータを取得することができた。
- 受講者が次の受講者を紹介してさらに受講希望者が増えていくような受講者ネットワークが構築され、全社的に広く告知ができた。
この活動を通して、後述するAI活用を目指す社内ニーズの発掘につながることになります。
社内の事業ニーズのヒアリング
AIを活用するという議論の前に、そもそも解決すべき事業課題を深掘りしなければなりません。解決すべき課題は何か、現状のプロジェクト進捗はどのような状況か、見るべきKPI(Key Performance Indicator)は何か、その課題にAIを活用するとした際の利点は何か、AIを活用するとなれば達成すべき精度はどのくらいだと見積もれるか、などを深掘りすることによって、AIを導入した際の想定インパクトや導入確度を見積もることが可能になります。
現在AI活用促進チームでは、各部署の組織長に対して事業ニーズの深堀ヒアリングを行っています。いわゆる「コンサルティング」になるのですが、深掘りの過程で自部署が持っているAI技術シーズと事業ニーズのマッチングを検討します。ニーズにおける課題をAI技術シーズによって解決できそうかどうかを、簡易的なデモやプロトタイプを用意して実際に触ってもらうことで一緒に議論・検討します。
ただし、一方的に我々が持っている技術を売り込みに行ってもなかなか理解されないことが多いため、事業部と同じ指標で導入による想定インパクトを概算しておかなければなりません。この場合の指標は基本的に短期的な指標、例えば売上やCVRが挙げられますが、過去にAIの導入事例がないケースでABテストなどの実績もない場合、インパクトの概算が非常に難しいというのが一つの悩みポイントになっています。このようなプロセスの過渡期においては、どうしてもお互いの見ている数値が異なっているケースが多いため、直接のコミュニケーションによって目指すべきゴールをすり合わせていくことが重要となります。
まとめと今後に向けて
AI戦略室ではLIFULLのAI-Ready化に向けてAI技術の活用を社内で促進していく「AI活用促進チーム」が結成され、「事業部とAI専門家のお互いの得意分野を活かした、具体的かつ良質なニーズや企画が量産される状態」をゴールとして打ち手を検討しています。それらの打ち手として、「1. AI活用のリテラシー・知見を全社に広める」「2. 社内の事業ニーズに対する課題解決の手法として、AIの技術シーズを提案する」の2点を重視し、日々の業務と並行して担当しています。
この記事を書いている現在、AI界隈ではGPT-4の自然言語処理モデルが世間を賑わせています。この波に乗り遅れないように、技術の革進を全社に広めていきたいと思います。
また、LIFULLでは共に成長できるメンバーを募集しています。この記事を読んでいただいた方は、ぜひこちらのページもご覧ください。