プロダクトエンジニアリング部の興津です。
私は現在、LIFULLの海外拠点の一つである、LIFULL Tech Malaysia Sdn. Bhd.(以下LFTM)のメンバーとともにLIFULL HOME'Sの賃貸領域でサイト改善業務をしています。
今回は、言語や文化の違う私たちがどのようにコミュニケーションをとりながら働いているのかを紹介します。
LIFULLの海外拠点の紹介
2024年現在、LIFULLにはベトナム(LIFULL Tech Vietnam Co.,Ltd.以下LFTV)とマレーシアにグループ会社があります。
さらなる事業拡大を目指すために、より優秀な開発リソースを確保したいという考えから行き着いたのが、これらのグローバルな開発拠点の設立でした。
それぞれの現地で採用されたエンジニア達が本社メンバーと協働しながら、開発業務を担っています。
本社メンバーが現地に駐在したり、短期で各拠点に滞在して仕事をすることも可能です。
しかし、普段は現地で採用された各国のエンジニアが中心となって業務を行っています。
なお、LIFULL社内では、LFTVとLFTMを総称して「LFTx」と呼んでいるため、本稿でもこの2つを合わせて指す時はこちらの表現を使用させていただきます。
場所に捉われない1つのチームへ
2023年にLIFULLでは、「LFTxに対してオフショアという言葉を使わない」という宣言をしました。
それは「オフショア」という言葉に、以下のようなイメージが想起されやすいことを懸念したからです。
- 本社からの発注を納品すればよしとされる状態
- 業務が固定化してエンジニアが一定以上のレベルから成長できない環境
- 本社と距離感のある主従関係と不活性なコミュニケーション
先述のように、LFTxが設立された理由は、優秀な開発リソースの確保です。場所に捉われず優秀なエンジニアがいたら一緒に働きたいという気持ちで LFTxは作られました。
LFTxがより能力を発揮できる環境作りや、今後のさらなる発展と増員を目指すにあたって、上記のようなイメージは妨げになると考えました。
目指す方向性に即したLFTxとの関係性を、私たちは以下のようにとらえています。
- 継続的な開発を続けていく一体感のあるチーム
- さまざまな業務に挑戦する機会の提供と成長の促進
- 会社の違いによる距離を感じないフラットなコミュニケーション
すなわち、LFTxであることや海外拠点であることは特に意識をしない、1つのチームを作っていく存在としていきたいと考えています。
そのための第一歩として、「オフショア」という言葉を使わないことで、意識の醸成を作ることから始めました。
この宣言をする前のLFTxは、LIFULLから発注した開発業務を受託し、設計からテストまでを一貫して作業してできた成果物を納品する形での協働が中心でした。
つまり、冒頭で書いた「オフショア」という言葉で想起しやすい関係性であったと言えます。
しかし、この宣言と同時に、意識や言葉の扱いだけではなく、体制的にも積極的に理想の実現に向けて取り組んでいます。
本稿では、現在、実施しているさまざまな取り組みを紹介できればと思います。
チーム発足時の状況
上述の通り、2023年の10月から、私が所属するチームにLFTMメンバーがアサインされました。
当時の私は、場所に捉われない1つのチームになりたいという会社の思いに強く共感していました。その一方で、言語や文化が違うマレーシアの人たちと働くことは日本国内で暮らす人と働くことよりは難易度が高く、自分では力不足なのでは、と不安も大きかったです。
その当時のチームメンバーとLFTMがそれぞれどのような状況であったのかを簡単に説明します。
LIFULLのチームメンバー
LFTMと協働することが決まった時、私はチームメンバーの一人一人に英語の経験やLFTMとコミュニケーションを取りながら仕事をすることの意向について簡単にヒアリングをしました。
その結果、全員が「これを機にLFTMとのコミュニケーションを取りながら英語力も上げていきたいが、英会話経験はほとんどなく、自信がない。マレーシアの文化もよく知らない」という回答でした。
スキル面は若干心許ないものの、一番大切な意欲は十分にある、という状態です。
これはチームのエンジニアリーダーである筆者も含まれています。
LFTMのメンバー
LFTMは2023年3月に設立されたばかりで、10月の時点ではあまりLIFULLとも連携をしていませんでした。
特に、我々のチームである賃貸領域との連携経験はまったくなく、LIFULL HOME'Sを開発する環境やドメイン知識もありませんでした。
また、LFTMの求人要項では、特に日本語のスキルは求めていません。当然、メンバーは日本語がわからない状態です。(なお、LFTMでは2023年12月から日本語のレッスンが受けられる制度を発足しました)
つまり、エンジニアとしてのスキルはあるもののLIFULLの知識は少なく、日本語でのコミュニケーションも難しい状態でした。
LFTMと協働するための取り組み
そんな私たち本社メンバーとLFTMメンバーが、どのようにコミュニケーションを取り、協働しているのか具体的な方法を紹介します。
コンセプトは、「言語と文化は尊重しつつ、チーム内の役割は会社の垣根をなくした開発チームを組成する」
同じチームのメンバーとして受け入れるからには、「LIFULLだから」「LFTMだから」という考えを極力捨てることにしました。
ドキュメント類は日英併記で記載するようにして、MTGの多くをLFTMと一緒に行い、重要事項は日本語と英語を交えて会話するようにしています。
PJのアサインも、まとまった単位の仕事をLFTMに任せ、LIFULLは納品されるのを待つといった、受託らしいスタイルは廃止しました。
作業のアサインは会社の垣根をなくし、LIFULLに新入社員が参画した時と同じように行っています。たとえば、コーディングはLFTMメンバーでレビューは本社メンバーが行ったり、LFTMメンバーが作成したテスト仕様書をもとに本社メンバーがテストを行うというスタイルも採用しています。
また、従来ではブリッジSEと呼ばれる日本語が堪能な現地社員を仲介してコミュニケーションを取っていましたが、それを撤廃し、担当者と直接やりとりをするスタイルをとっています。
MTGへの参加を積極的に促していく中で、LFTMメンバーからも仕様やサイト改善施策の提案をしてくれる機会も少なくありません。私たちだけでなく、LFTMも自分たちが受託したことをやるだけではない、ともにLIFULL HOME'Sをよくしていくメンバーであるという意識を持っていることが伺えます。
ただし、現時点でも不十分な点はまだ多いです。たとえば、施策のブレストなど、すべてのMTGをLFTMと行っているわけではありません。今後も改善を繰り返しながら、理想に近付いていきたいと考えています。
言語の壁を越えるためのツール利用
最初の高い壁である言語の差を解消すべく、私たちは以下に挙げるような多くのツールを使用しています。
Meet
私たちは状況に応じてさまざまなWeb MTGのツールを使用していますが、LFTMも交えたMTGではMeetを使用するようにしています。
字幕を各々で設定ができることと、画面共有中も特に設定が不要で相手の顔が同時に表示される状態になっているためです。
私たちは字幕に頼りながら、時にはボディランゲージやリアクション機能も交えて会話をしています。
Googleスプレッドシート
ドキュメントを作成する際、私たちはGoogleスプレッドシートを積極的に使用しています。
なぜなら、googletranslate関数を使うことで、容易に翻訳ができるためです。
私たちはサイト改善施策の仕様書や、テスト仕様書などさまざまな場面でこの関数を使って翻訳することで、翻訳コストを削減しています。
Chrome拡張機能「DeepL翻訳」
GitHubのレビューなど、スプレッドシートを介入することが難しい場所ではChrome拡張機能のDeepL翻訳を使用しています。
書いたものをワンクリックで簡単に訳してくれるので重宝しています。自分の書いた日本語を英語に変換する時やLFTMの書いた英語を日本語に変換する時だけでなく、自動翻訳した英語を日本語に再度翻訳することで、意図しない意味に変換されていないかのチェックにも使用しています。
Slackアプリケーション「Kiara」
私たちは普段の非同期コミュニケーションはSlackで行っています。
このSlackのチームチャンネルに、それぞれの投稿に返信する形で自動翻訳を投稿してくれる「Kiara」を導入しています。
日英どちらで書いても自動で判定し、日本語なら英語に、英語なら日本語に変換してくれるため、Slackのやりとりは言語をまったく意識することなくコミュニケーションが取れている状態です。
Slackワークフロービルダーとkeelai
keelaiとは、社内で開発・運用されているAIチャットbotです。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
このkeelaiとSlackワークフロービルダーを掛け合わせることで、自動翻訳を行うこともあります。
たとえば、Slackで任意の投稿に特定のリアクションをつけた時、keelaiにその投稿を翻訳するように指示をする、というワークフローを作成します。
Kiaraではチャンネルすべての投稿を自動的に翻訳するのに対し、この方法では任意の投稿に対して翻訳できるため、チャンネルの特性に応じて使い分けをしています。
さらに、keelaiには「この文章を翻訳しやすい言葉に添削してください」という指示を与えることも可能です。複雑なことを伝える時は、一度翻訳しやすい日本語にしてから英語に翻訳をすることもあります。
自動翻訳を活用するために気を付けていること
このツールの使い方からわかる通り、私たちは無理に言語を合わせるのではなく、それぞれの言語を自動翻訳することを主としてコミュニケーションを取っています。しかし、何も考慮せず自動翻訳に頼りきってしまうと、思わぬところで認識の相違が生まれてしまいます。
そのため、私たちは以下のような工夫をすることで、より精度の高いコミュニケーションを目指しています。
一つの文で伝えることは一つにする
×「レビューをしたので確認をお願いします。」⚪︎「レビューをしました。確認をお願いします。」
言葉はシンプルにする
×「教えていただけないでしょうか?」⚪︎「教えてください」 ×「チャレンジパターンが優勢です」⚪︎「チャレンジパターンが勝っています」
主語や目的語を明確にする
日本語は主語や目的語を省略しても伝わってしまう言語です。これらを意識的につけることで自動翻訳のミスを防ぐことができます。
×「今日は欠席します」⚪︎「私は今日のMTGを欠席します」
動詞は漢字で表現する
ひらがなの動詞は変換でミスしやすいので、翻訳の選択肢を狭めるためにも漢字にした方がうまくいきやすいです。
×「ひらがなの動詞は変換でミスしやすいので」⚪︎「ひらがなの動詞は変換でミスが発生することが多いので」
感情は絵文字で伝える
感情を伝える文章は、特に自動翻訳が失敗しやすいです。
また、翻訳された言葉自体が意図した通りだったとしても、褒めているつもりで言ったコメントが、否定的な印象を与えてしまうこともありました。
そのため、私たちは感情は絵文字を多用して伝えています。
日本語に自動翻訳されたもので、複雑な表現があるものはネイティブチェックを入れる
私たちはLFTMメンバーが作成したテスト仕様書を日本語に自動翻訳して、それを使って本社メンバーがテストを実施することがあります。
テスト手順などは複雑なものも多く、自動翻訳では仕様を把握していないテスト実施者にはうまく伝わらない部分も発生してしまいます。
そこで、仕様を把握している本社メンバーが自動翻訳をネイティブチェックをすることで、テスト手順にミスが発生しないようにしています。
文化の違いを越えるための取り組み
言語は機械的に解決する方法がある一方で、文化的な違いはツールなどで解決することは不可能です。
そこで私たちは、以下のような手段で互いの文化を紹介しています。
Slackで日常を紹介
LFTVとLFTMでは、それぞれが自社の日常を紹介する専用チャンネルを作成しています。
内容は社内イベントや、社員の紹介など多岐にわたっています。
それぞれのチャンネルは本社メンバーも投稿が可能です。
日本で行われたベトナムフェスに行ったレポートなども投稿されていたり、時にはお互いの飼い猫の写真を投稿するだけのスレッドができた日もありました。
このSlackチャンネルは所属するチームも関係なく交流できるツールの一つとなっています。
互いのことを紹介する時間を作る
私たちのチームでは互いの文化を知るための一環として、週に一度それぞれが自由に自分たちの趣味や体験などを紹介する時間を持ち回りで作っています。
内容は最近行った旅行の話や、自分の住んでいる街のことなどその日によってさまざまです。担当者の話をコメントやリアクションも使いながら、楽しんで聞いています。
「この写真に写っているものは何?」「マレーシアと違って日本ではこんな感じです」など、担当者以外が話を膨らませることも多いです。
最初は「自分の英語が通じるだろうか」ということばかりが気がかりだったのが、回を重ねるごとに「この話題は向こうの文化だとどう映るだろうか?」ということも考えられるようになりました。
具体的には、私はLIFULLのダイバーシティ&インクルージョンを推進する委員会のLGBTQ+チームに所属し、性的指向やジェンダー・アイデンティティに捉われない環境づくりを推進しています。この取り組みを紹介したいと考えた一方で、「ムスリムが多いマレーシアではLGBTQ+に対してどのような考え方を持っているのか?」と立ち止まることができました。
最終的にはLFTMの代表取締役社長である松尾さんにも相談の上、「あくまでLIFULLではこのような取り組みを推進している」という表現で伝えることにしました。まったく違う話題にすることもできましたが、文化の違いを見せないようにするのではなく、見せた上で受け入れ合うことを目指したいと考えたためです。幸いにも、LFTMメンバーは特に拒否反応を示すことなく話を聞いてくれました。
すべての人・事柄が同じようにはならないだろうということは念頭におきつつ、これからも少しずつ互いの文化を受け入れ合えたらと考えています。
LIFULLのサービスに触れる時間を作る
お互いのことを紹介している中で発覚したことですが、日本とマレーシアでは住み替えの方法が大きく異なります。
私たちが当たり前に利用しているLIFULLのサービスが、LFTxのメンバーにとっては当たり前ではないのです。
そこで、LIFULLのサービスを一通り触って見てもらう時間を作ることにしました。 また、LIFULLがこのサービスでどのように利益を得ているのかを簡単に説明する時間も設けました。
その結果、LFTMメンバーは自分たちから「ユーザーだけではなく、クライアント(LIFULL HOME'Sに情報を入稿する不動産会社)が触れるサービスも見たい」と提案してくれました。私たちの説明も真剣に聞いてくれました。 自分たちが作っているサービスを理解しながら開発することで、高いモチベーションと品質を維持できていると感じています。
最後に
LIFULL・LFTV・LFTMではそれぞれ一緒に働いてくれるメンバーを募集しています。
語学力に自信がないけれど、海外の人と仕事がしたいと考えている人には良い体験を提供できる組織だと思います。当てはまる方はぜひカジュアル面談などのページを見ていただけたら幸いです。
日本人の方でも現地で暮らすことができるのであれば、LFTVやLFTMで働くことも可能です。