LIFULL HOME'S不動産査定・ホームズマンション売却の開発をしている、ジョン ヨンソクです。
今、私たちのエンジニアリングの世界は大きな転換期にあります。生成AIの登場によって、開発のスピード感や求められるスキルセットが劇的に変化しているからです。
そんな中、私はチーム内の「生成AI活用」を促進するための活動に取り組みました。今回は一人のエンジニアとして、チームと向き合いながら、どのようにメンバーとAIの距離を縮めていったのか、その試行錯誤のプロセスを綴ります。
- 一方的な「レクチャー」を避けた理由
- 目標は「使いこなすこと」ではなく「親密度」
- 「親しくなる」ための設計
- アンケートから「まだ使えていない領域」を見つける
- 「親密度」はどう変わったか
- 「とりあえず聞いてみる」が当たり前になるまで
- 次の「当たり前」に向けて
一方的な「レクチャー」を避けた理由
活動の起点となったのは、事業目標である利益(KGI)の達成です。その先行指標として「売却開発サイクルタイムの短縮」を掲げ、目標達成のための最重要成功要因(CSF)として生成AIの活用を定義しました。このCSFを具体化し、最終的なKGI達成へとつなげるための指標が、開発工程における生成AIの活用率(KPI)です。目指す姿は、全メンバーが一定水準以上でAIを活用し、開発工程全体でAIが担う割合を大幅に引き上げることです。
活動を開始した当初、チーム内には「すでに使いこなしているメンバー」と「まったく触れていないメンバー」の間に大きな差がありました。どのレベルのメンバーにとっても意味のある時間にしたい。そう考えたとき、「AIの使い方」や「サービスの比較」を一方的に教えるような、いわゆる「講習」形式は避けるべきだと感じました。
単なる情報の提供は、ともすれば受け身の姿勢を生んでしまいます。インターネットにはすばらしい情報が溢れていますが、同じ業務ドメインを持つメンバーどうしが対話を通じて生み出す活用例には、それを超える実践力があります。私がやるべきことは情報の横流しではなく、こうした知見を共有し合う「文化」の土壌を整えることだったのです。
目標は「使いこなすこと」ではなく「親密度」
文化を作るために、まず定義したのが「AIと親しくなる」という状態です。KPIの数字を追う前に、まずはメンバー全員が「日常的にAIに触れている」状態を作ることが最優先であると判断しました。
そこで、その状態を測るスモールステップとして設定したのが「アクティブ率」です。 「1ヵ月のうち、何日AIにアクセスしたか」を営業日数で割り、その比率が40%以上になることを第一の目標に掲げました(社内で利用しているAIツールの管理機能から、メンバーごとの利用日数を確認できます)。
「最初からうまく活用すること」よりも「毎日少しでも相談してみる」こと。この「親密度」を重視した設計が、結果としてメンバーの心理的ハードルを下げることにつながりました。
「親しくなる」ための設計
活動期間から逆算し、隔週を基本におよそ10回の構成としました(軽い共有は毎週開催することも)。この限られた機会の中で何をどう届けるか、活動の企画を一緒に担ってくれたメンバーと設計を進めました。
まず、活動全体を大きく2つに分けました。前半は基礎的なインプット中心、後半は実務活用中心です。最終的にはメンバー自身が活用事例を持ち寄り、互いに共有し合う場にしたいと考えていました。
前半:「まず触れる」ための基礎固め
社内で主に使用しているAIツールの導入と基本操作から始め、MCPを活用して社内の実務ツール(Confluence、Jira、データベースなど)と連携させる方法を扱いました。最後に、AI利用時の注意点やセキュリティについて共有しました。また、ほか部署でAIを積極的に活用しているメンバーをゲストに招き、実体験を語ってもらう回も設けました。
ただし、基礎的なインプットはどうしても一方的な講義になりがちです。そこで各回は、発表を10〜30分に抑え、残り30〜50分は実習・Q&A・ディスカッションの時間としました。実習で扱う内容は事前に共有し、必要な環境構築を済ませておいてもらうことで、限られた時間を「一緒に考え、試す」ことへ集中できるようにしました。
実習では、MCPを使って社内の情報にアクセスする方法など、すぐに業務で役立つ内容を中心に据えました。そして、この実習を通じて生まれた疑問や気付きを、そのままディスカッションにつなげていきました。同じ業務ドメインを持つメンバーどうしが議論することで、「自分ならこう使う」「この場面でも使えそう」といった具体的なイメージが互いに鮮明になっていく。この対話の時間こそが、単なるインプットを「自分ごと」に変える鍵だったと感じています。
後半:「実務で使う」ための実践編
前半がインプットと実習を織り交ぜた構成だったのに対し、後半は実際の活用にフォーカスしました。AIを活用したコードレビューの協業プロセスや、テストケース作成の効率化など、日々の開発業務に直結するテーマを取り上げました。
まずは私自身の使い方を共有するところから始めました。特にコードレビューでは、「PRをまるごとAIに渡してレビューして」と大きく投げるのではなく、作業を小さな単位に分解し、各ステップで人間が確認を挟む協業構造を提案しました。AIは確率ベースで動作するため、一度に任せるステップが長くなるほど精度は落ちていきます。短く区切って人間が介入するポイントを増やす——この「分解」の意識が、AI活用の精度を上げる鍵になります。「どう使えばよいか、少し感覚がつかめた」という声が聞こえてきたのは、この回でした。
そして当初の狙い通り、後半に進むにつれて発表者が私だけではなくなっていきました。たとえば、ある回で共有したAIツールのプランニング機能を、あるメンバーが日常的に愛用するようになりました。また、エージェントのカスタマイズ方法を共有したことをきっかけに、自分のローカル環境のエージェント設定を実際に改善するメンバーも現れました。知見を共有し合う文化の輪郭が、少しずつ見え始めたことが、この活動における一番の収穫だったととらえています。
アンケートから「まだ使えていない領域」を見つける
活動の方向性を決めるうえで活用したのが、社内で定期的に実施しているアンケートです。アンケートでは「実際に担当している業務領域」と「その中でAIを活用している領域」の2軸で回答を集めています。この結果を突き合わせることで、担当業務のうちAIを活用できている割合と、まだ活用方法のわからない領域が明確になります。活動ではこの分析を活用し、活用が進んでいない領域を優先的に共有会のテーマに取り上げていきました。たとえば、テスト領域でのAI活用が進んでいないと分かったため、テストにおけるAI活用の進め方をテーマにした回を設けました。
固定的なカリキュラムではなく、チームの状況に合わせて柔軟に内容を調整していく。この「活用シーンの具体化」と「共有の場」の両輪が、チームの変化につながりました。
「親密度」はどう変わったか
直近の計測データである2026年2月時点の結果をもとに振り返ります。
まず、アクティブ率の変化です。
| Before(2025年10月) | After(2026年2月) | 変化 | |
|---|---|---|---|
| アクティブ率 40%以上 | 約60% | 100% | ↑約40% |
| アクティブ率 100% | 約40% | 約75% | ↑約35% |
| アクティブ率 0% | 約25% | 0% | ↓25% |
そして注目すべきは、アクティブ率だけでなく、AIとのやりとりの深さを示す総活動量(トークン使用量)にも変化が現れたことです。
たとえば、あるメンバーは活動開始前からアクティブ率は高かったものの、実際のトークン使用量はごくわずかでした。AIを起動はしていても、何を聞けばよいかわからず、深い活用にはいたっていなかったのです。それが活動を経て、トークン使用量は10倍以上に増加しました。また、アクティブ率0%だったメンバーも、起動頻度の増加に伴ってトークン使用量が着実に伸びていきました。
この変化は、「まずAIを開く習慣」が先行指標となり、「活用の深さ」が自然と後からついてくるという構造を示しています。頻度を追うことで、結果として質も伴ってくる。
「とりあえず聞いてみる」が当たり前になるまで
数字の変化の裏側には、メンバー一人一人の意識の変化がありました。
「何を聞けばよいかわからない」と戸惑っていたメンバーも、共有会での具体的な活用例を自分事としてとらえることで、徐々に「とりあえずAIに聞いてみる」という動きが習慣化していきました。最初は受け身だったメンバーが、やがて「こういう場面でも使えそう」と自ら提案するようになっていく。
「隣のメンバーがこう使っているなら、自分も試してみよう」
そんな小さな刺激の連鎖が、チーム全体のエンジニアリングを底上げしていく。
次の「当たり前」に向けて
約5ヵ月にわたる活動を振り返ると、エンジニアチームのAI活用に対する解像度は明らかに上がりました。「何を聞けばよいかわからない」から「自分なりの使い方を持っている」へ。その変化は、数字にも日々のやりとりにも表れていました。
一方で、次の課題も見えています。開発者の業務効率化だけでは、事業目標への貢献には限界があります。エンジニアがAIで開発を速くしても、何を作るかの判断はエンジニアだけでは完結しません。企画メンバーが持つドメイン知識の深さは、エンジニアには代替できません。その知識とAIを掛け合わせるためには、企画メンバー自身がAIという道具に親しくなる必要があります。
今回の活動で得たアプローチを、次は企画メンバーにも届けたい。それぞれが自分なりの活用法を持ったとき、チームの枠を超えた本当の変化が始まると信じています。
最後に、LIFULL では一緒に働く仲間を募集しています。よろしければこちらのページもご覧ください。