LIFULL Creators Blog

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情報システム部門のKPI(定量効果計測)について

こんにちは、テクノロジー本部コーポレートエンジニアリングユニットの籔田綾一です。今回は、情シス部門におけるKGI・KPIマネジメントの導入と実践について、その経緯と成果を共有します。私たちの試みが、同じ課題を抱える皆さんの参考になれば幸いです。

はじめに:情シス部門の成果を定量的に計測するには

「情報システム部門で、成果を定量的に示すことができるのだろうか?」

これは、多くの情シス部門が抱える課題ではないでしょうか。日々のインフラ運用、ヘルプデスク対応、セキュリティ対策、そして数々のプロジェクト推進など、情シス業務は多岐にわたります。その貢献を経営層や他部門に示す際、定性的な説明に終始してしまうケースも少なくありません。売上のような明確な指標がないため、部門の価値をどのように証明すれば良いのかという悩みがあるかと思います。


このような経緯から、「情シス全体で採用できる定量的指標を自分で作ってみよう」と考えました。

まず、数十社もの大手有名企業の情シス責任者の方々にヒアリングを実施しました。その結果、多くの企業で「部門全体の成果を定量的に測る指標があれば良いとは思うものの、実際には作れていない」という共通認識があることが分かりました。個別の指標は存在するものの、それらを統合して部門全体の成果として示す仕組みは確立されておらず、正直なところ、私自身も半ば諦めかけていました。

しかし、それでも何か方法はないかと1年ほど模索する中で、ふと解決の糸口を思いつきました。

最初のステップ:指標の「物差し」を統一するアイデア

私が最初に直面したのは、「異なる性質の指標をどう統合し、定量的に評価するか?」という壁でした。固定費、従業員満足度、プロジェクト進捗率、問い合わせ対応時間。これらは単位も性質も全く異なります。

そこで考えたのは、「物差しが違うなら、統一してしまえ」という思い付きです。つまり、単位が異なる指標であっても、基準となる数値を設けて比較できるようにすれば良い、という発想です。

例えば、固定費削減であれば、年間予算ならば「1」を基準値とし、10%削減なら「1.1」、逆に10%オーバーなら「0.9」といった具合に表現します。開発進捗率も同様に、完了すべきタスク数(目標値)を分母、完了済みのタスク数を分子とし、「1」以上であれば目標達成とみなしました。これらを個々のKPIとみなし、その平均を部門全体のKGIとして捉えてみました。

戦略と連動させるための工夫:ウェイト付けの導入

設定したKPIが常に全社戦略と整合しているとは限りません。そこで、各KPIにウェイト設定を取り入れてみました。全社戦略における各項目の重要度に応じて、個々のKPIに重み付けを行うイメージです。

部門全体の目標達成度合い(仮に「戦略スコア」とします)をKGIとして、個々のKPIスコアにそれぞれのウェイトを掛けて算出されるようなイメージを表形式で示します。

KPI の種類 KPI名 予算/実績 KPI 重要度 ウェイト KGI
コスト関連 固定費削減率 1億/9000万 1.1 0.4 0.44
開発進捗 開発タスク消化率 100件/90件 0.9 0.3 0.27
業務効率化 工数削減時間 110時間/100時間 1.1 0.2 0.22
その他(必要に応じて) システム安定稼働率 100%/100% 1 0.1 0.1
KGI(戦略スコア) 1.03

このように、各KPIに戦略上の重要度に応じたウェイトを設定し、それぞれの達成度を考慮することで、部門全体の戦略的な貢献度を評価することができます。そして、このウェイト付けにより、情シス部門の活動が、単なる日々の業務遂行ではなく、企業の戦略目標達成にどのていど貢献できているか定量的に示せます。

とにかく1以上を目指そう!:具体的な行動変化

KPIを評価にも組み込み、KPIマネジメントを半年間運用してみたところ、メンバーの行動に明らかな変化が現れました。

固定費削減への意識と行動の変化

これまで、具体的な数値目標として意識されていなかったコストに対して、「自分たちのKPI」という意識が芽生え、コスト削減に向けた具体的な行動が自発的に生まれるようになりました。

  • 不要アカウントの削減:無駄なコストを減らすため、各メンバーが主体的に利用状況を調査し、不要なアカウントの削除を提案・実行。
  • 通信料の見直し:モバイル通信料の利用状況について、高額な利用をしているユーザーに対して利用状況の確認や改善提案を行う。
  • 不要なサービスの見直し:契約しているサービスの利用状況を調査し、利用頻度の低いサービスや重複しているサービスがないか積極的に洗い出し、解約に向けた検討を始める。
  • PC調達方法の再検討: PCのライフサイクルコストを意識するようになり、リースという選択肢を検討し始めました。コスト削減への意識がなければ、そもそもリースを検討することはなかった。

開発タスク進捗向上への意識と行動の変化

開発タスク消化率をKPIに設定したことで、「期日までにタスクを完了させる」という意識がより向上し、チーム内の協力体制が強化されました。

  • タスク管理の意識向上: 各メンバーが自身のタスクの進捗状況をより意識的に管理
  • 積極的な協力体制: チーム内で互いに助け合い、タスクの遅延を防ぐための協力体制が生まれる
  • あと一歩を頑張る: あと0.1で達成といった状況が見えるため、リスケよりもゴールしようと頑張る

振り返り:やってみて分かったこと、そして今後の課題

今回のKPIマネジメント導入を通じて、異なる指標を統一化し定量的に評価する難しさ、適切なウェイト付けの重要性、そして何よりも、目標を「見える化」することによる組織の変化の大きさを実感しました。

一方で、KPIの設定やウェイトのつけ方、目標値の妥当性、そして部門全体への浸透には、まだ改善の余地があると感じます。今後も定期的にKPIを見直し、より実効性の高いマネジメントサイクルを確立していく必要があると感じました。

まとめ:情シス部門の成果は定量的に計測できる

情シス部門は、決して「成果が測れない部門」ではありません。 「情シス部門の成果を定量的に計測する」という課題に対し、KPIマネジメントという試みを通じて、数字の裏にあるメンバー一人ひとりの意識と行動のポジティブ変化こそが、KPIマネジメントの成果であると強く感じています。

最後に、LIFULL ではともに挑戦し成長していける仲間を募集しています。よろしければこちらのページもご覧ください。

hrmos.co

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籔田綾一
LIFULLテクノロジー本部 コーポレートエンジニアリングユニット
ユニット長

2010年入社、技術マネージャーとして商品開発を多数手掛けたのち、
Salesforce(CommunityCloud)を用いたB向けポータルサイト立ち上げ、オンライン受注システム構築。
社内のSaleforce組織を統合、機関システムとSalesforceを連携しマーケティング、CRM、販売管理と一気通貫のシステム構築。
現在は情報システム部門の責任者として社内システム刷新に取り組んでいます。