こんにちは。フロントエンドエンジニアの根本です。 LIFULL HOME'Sのプロダクト開発とスポーツ関連の新規事業開発に携わっています。 今回、2024年度の人間中心設計専門資格認定制度に挑戦し無事にスペシャリスト資格を取得しました。 ここでは、試験のための事前準備とエンジニアとしてこの試験に挑戦した理由および人間中心設計(Human Centered Design=HCD)に取り組む意義について考えを整理しました。
人間中心設計専門資格認定制度とは?
HCD-Net(人間中心設計推進機構)が人間中心設計に関して一定水準の能力を有する人材を専門家、スペシャリストとして認定する制度です。 その中で、HCDスペシャリストの受験資格は下記を想定されています。
- 人間中心設計の基本的な実務能力を持つ実務担当者
- 人間中心設計・ユーザビリティ関連の実務経験が2年以上
- 人間中心設計が主業務で5年未満の方や、デザイナーやエンジニアなどで兼務の方
このように、私のようなエンジニアも対象とされた認定資格であり、人間中心設計はエンジニアにとって必要なスキルの一つであることがわかります。
なぜ受験したのか
以前、RESEARCH Conference 2024に登壇しました - LIFULL Creators Blogでも述べたように、UXエンジニアとして数年間にわたってHCDの取り組みを実践してきました。 この経験を第三者に評価されることにより、自分の知識とスキルの客観的な位置を確認し、キャリアの指針として信頼性を築きたいという思いから受験を決めました。
やっておくべきこと
HCDスペシャリストの試験については公に多くの情報が出回っているため詳細は省きますが、私が試験準備として特に役立ったことを紹介します。 それは過去のプロジェクトの取り組みを「詳細に」記録しておくことです。受験時に提出するコンピタンスシートには、各大項目のコンピタンスを、3つの観点に分けて具体的かつ体系的に記述する必要があります。
- 目的と調査・評価設計の対象
- 体制と実施内容
- 工夫とアウトプット
これまで参加してきたプロジェクトでは、HCDの目的や設計、その成果や課題を具体的な手法と関連付けて整理していました。具体的には以下の観点でドキュメント化し、管理していました。
- 調査設計(調査背景・目的、検証手法、検証対象、検証人数、検証期間)
- 分析設計(採用した分析手法、分析結果)
- ユーザー定義(採用したモデル化手法、活用したフレームワーク)
- デザイン設計(プロトタイプ・情報設計の考え方)
詳細にドキュメントを残していた理由は2点あります。
1. HCDの取り組みを正確に伝える
私たちの開発チームは多くのプロジェクト関係者が携わり、時にはメンバーが入れ替わることもあるため、情報共有が非常に重要です。 各種検証や分析プロセスを整理することで、チーム全体が一貫した一次情報を共有し、統一した理解を持つことを目指しました。 これにより、プロジェクト進行におけるコミュニケーションギャップを減らし、効率的な協力体制を築けるようになります。
2. 他チームへのHCDプロセスの伝達
具体的な手法や成果を整理しドキュメント化することで、他のプロジェクトや組織がこれを学び、参考にできることを期待しました。 私たちの開発チームはHCDプロセスにおいてまだ未熟な部分もあるため、基本的なステップも省略せず詳細に整理することを心がけました。 こうしたオープンな情報共有が、HCDプロセスの促進に少しでも寄与できればと考えています。
このようにドキュメントは他者への情報共有目的で作成しましたが、結果的に自身にとっても貴重な資産であることを改めて実感しました。
受けてよかったこと
受験を通して一番良かったことは、過去のプロジェクトでの経験を振り返ることで習得してきたスキルの確認と不足している知識の棚卸しができた点です。 具体的には、A6・A13のコンピタンスについて過去のプロジェクトでは十分に実践できず経験不足を実感しました。
A6. 新製品・新規事業の企画提案力(基本コンピタンス) ユーザー理解から生まれた視点、価値から生まれた新たなコンセプトを、関係者に提案し実現に向けて合意をとれる企画提案能力のこと アウトプットの例:ビジネスモデルキャンバス、ビジョン提案型デザイン手法、ピッチ資料、事業企画書、リサーチ分析結果
今回、ユーザーリサーチの結果を用いて企画提案する力もHCDの一部であることを初めて認識しました。直近の3ヶ月で実施した新規機能開発に向けたユーザーリサーチでは、このコンピタンスを意識し、ユーザーリサーチの結果を活用して提案を行うことに注力しました。
A13. 専門知識に基づく評価実施能力(基本コンピタンス) 人間中心設計(HCD)および関連する専門知識を用いて、製品・システム・サービスのユーザビリティ、ユーザーエクスペリエンス、ユーザーインタフェースなどの良し悪しの判断・指摘ができる能力のこと アウトプットの例:ヒューリスティック法、ウォークスルー法、タスク分析
A13に関しては、過去にユーザビリティ検証を何度も行ってきましたが、ヒューリスティック法やタスク分析などの体系的な方法論に基づいた分析には不十分であったと認識しました。今後は、ユーザーリサーチを進める際に最適な評価手法を事前に考慮し、実践していきたいと考えています。
エンジニアが取り組む意義
最後に、エンジニアとしてHCDに関する知識を持ちプロダクト開発に参加することの意義を考えてみました。 エンジニアは「どうやって作るか」という役割を担う上で、「なぜそれが必要なのか」という点を深く理解することが重要だと考えます。 ただ指示されたものを形にするのではなく、機能要件の本質を理解し、適切に足し算・引き算の提案を行うべきです。
- 足し算の提案:他にどのような実現方法があるかを提示する
- 引き算の提案:特定の機能が過剰な開発である可能性を示す
そして、「なぜそれが必要なのか」という根拠を示すプロセスとしてHCDが存在すると考えています。「人間にとって使いやすいシステムとは何か」と考えていくプロセスに寄り添うことで、エンジニアはその過程で最適な解決手段を提案することができます。 結果として、ユーザー中心のプロダクト開発においてエンジニアが真の価値を創造する重要な役割を果たすことができるのではないでしょうか。
最後に
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